三菱地所株式会社 執行役専務
長沼 文六
コロナ禍の影響や、国際情勢等により世界が大きく変化する中、気候変動や人権をはじめとする社会の持続可能性に対する危機感は更に高まり続けています。企業には、経済と環境、社会の好循環を促進し、持続可能な社会の実現をけん引する役割が期待されており、今や、社会価値の向上に取り組むことなくして企業価値の向上は果たせなくなっています。
私たちがこのような情勢に的確に対応し、企業活動を営みながら持続可能な社会の実現に貢献するには、正確な情報把握とステークホルダーとの対話を通じて、当社グループがとるべき最善の策は何かを考え抜くことが必要です。
三菱地所グループは、2050年に目指すべき姿として「三菱地所グループのサステナビリティビジョン2050~ Be the Ecosystem Engineers~」を掲げています。
私たちは、130年以上にわたり丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町地区)をはじめとしてさまざまな場所でまちづくりを推進しています。まちづくりとは、多様なステークホルダーと連携し、協力し合いながら、街を育てていくことです。当社グループは、地域社会や自然環境への配慮、多種多様な社会課題や時代の変化への対応、さらにはその先を見据えた視点での工夫など、社会に常に新しい価値を提供していくことを使命として、まちづくりに取り組んできました。当社グループが「Ecosystem Engineers」として、立場の異なるあらゆる主体(個人・企業他)が経済・環境・社会の全ての面で持続的に共生関係を構築できる場と仕組み(=エコシステム)を提供することで、新たな価値やイノベーションが創出され、私たちが目指すサステナブルな街、社会への形成につながっていくものと考えています。
2024年5月に発表したサステナビリティ重要テーマ及びマテリアリティ(重要課題)の見直しは、当社グループの社会価値向上戦略と事業との関連性、財務価値への寄与をより明確化し、社内外ステークホルダーに示す意図がありました。グループ全体のサステナビリティ関連の目標等は、サステナビリティ統括責任者である私のもと、サステナビリティ推進部が企画・立案を行い、三菱地所の執行役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」での審議・報告を経て策定しています。今回の改定についても、サステナビリティ委員会、取締役会において経営陣による妥当性の評価を経て採択に至りました。「三菱地所グループと社会の持続可能性 4つの重要テーマ」で定める、まち・サービス、地球環境、人の尊重、価値の創造に関する各テーマを通じ、全てのステークホルダーへのより高い価値提供と持続可能な社会の実現を目指して取り組んでいきます。
三菱地所グループが、持続可能な社会と基本使命の実現を目指していくうえでは、多様なステークホルダーと共通の価値観・行動基準を共有し、一丸となることが必要です。三菱地所では、不動産開発事業において、設計仕様、建築資材、施工方法等に関し、用途・規模毎に必須与件を整理した「サステナビリティに配慮した建築設計及び施工に係る方針」を制定しています。またサプライチェーンマネジメントの観点では、グローバルな基準に合わせた「三菱地所グループ サプライヤー行動規範」を制定し、取引先の人権、環境面等に関する対応状況の確認体制を強化するとともに、2023年には施工現場で働く外国員労働者への救済メカニズム(グリーバンスメカニズム)として、多言語でアクセス可能な外国人労働者向けの相談・救済窓口サービスを導入する等、持続可能なサプライチェーンの構築に向けた施策を拡充しています。
これからも、多様な社会課題の解決に向けてあらゆるステークホルダーの皆さまとの対話と協働に努め、社会のニーズや当社グループへの要請と期待に本業を通じて応えていくことで、全てのステークホルダーへの提供価値を最大化し、さらなる企業価値の向上を目指してまいります。
社外取締役
岡本 毅
私は2019年に社外取締役に就任しました。当社グループはそれ以前に指名委員会等設置会社へと移行しており、以後も着実にガバナンス改革を進めてきています。現在、取締役会は社外取締役が半数を占め、かつ非執行取締役が過半数となっています。社外取締役は全て独立役員であり、女性2名を含みます。現状において取締役会の独立性・多様性は十分に保たれていると考えています。さまざまな立場や考え方のメンバーが参画することによって議論は活性化します。経営環境は絶えず変化しており、外部からの要請も変わり続ける中で、キャリア・ジェンダー・国籍など多くの切り口から最適な構成を検討していくことは不可欠です。現状に甘んじることなく、対応を続けていかなければなりません。
多様性を包含しない組織に成長は望めません。この重要性は取締役会に限らず、グループ全役職員が認識すべきことです。異なる考え方に直面したとき、それを忌避するのではなく、違いから何が得られるかを模索する発想が求められます。足元では、女性活躍推進へのさらなる取り組み、管理職・経営層を含めた女性比率の拡大が重要視されていますが、その発想の根本には、性別に限らず、いかに多様な人財が交流し、切磋琢磨し、力を合わせて組織を強くするかというテーマがあると考えます。職場においても経営においても多様な発想を尊重し、時代に即したビジネス感覚を磨いていくことを目指したいと考えています。
長期経営計画のモニタリングは、取締役会の大切な役割のひとつであり、執行側からの詳細な説明をベースに密な議論を継続してきました。2024年5月には「長期経営計画2030」のレビューを公表しましたが、背景には、コロナ禍やウクライナ戦争、米中デカップリング、急激なインフレなど、かつてないほど大きい国内外の情勢変化があります。これらに対応するため、戦略・戦術・ポートフォリオの転換をいかに進めていくか、取締役会でもこれは数年来の主題であり続け、相当に詰めた議論を繰り返してきました。
「長期経営計画2030」のレビューの中では、国内外の情勢の大きな変化を踏まえ、社会価値向上戦略におけるサステナビリティ重要テーマについても見直しました。基盤となる「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」を両輪とした経営は揺るがすことなく、三菱地所グループの事業をサステナビリティの観点から解きほぐし、マテリアリティを分析し、当社グループと社会、双方の持続可能性確立のためのアクションとして4つの重要テーマを再整理したものです。特に、当社グループのコア事業である、不動産に関わるハード・ソフト双方の事業推進そのものが社会価値向上に寄与することを明確化した意義は非常に大きいと考えています。従業員にとっては、自らの仕事の推進・完遂こそがサステナビリティに繋がっていると自信を持つことが出来ますし、投資家など外部のステークホルダーとの対話もしやすくなったと思っています。
環境変化が極めて速い中、今後も社内外のステークホルダーと対話を重ねながら、絶えず長期経営計画のバージョンアップ及び達成を目指していく必要があります。三菱地所グループは、大手町・丸の内・有楽町エリアという伝統に裏づけられた強固な経営基盤を持ちます。それを強みに、変化の波に対応するのはもちろん、自ら新しい潮流を生み出す気概を持ち、さまざまな施策を打ち出していくことを期待します。
私はこれまで、国内外で都市ガス事業・電力事業・エネルギーサービス事業などを展開する会社の経営に長く携わってきました。また、日本経団連において6年間役員を務め、多くの企業経営者との交流を重ねてきました。これまでの経験に基づく知見を活かし、三菱地所グループの企業価値向上と持続可能な社会への貢献という責務を果たしていきたいと考えています。