2026年度、三菱地所グループは更なる飛躍を目指すステージに入りました。「長期経営計画 2030」の後半戦に入り、各種目標達成のため、ラストスパートに向けて成長を加速する一年と位置付けています。2025年度は、当社の事業が堅調に推移し、長期経営計画の達成に向けて着実に前進することができました。一方で、気候変動の深刻化、地政学リスクの高まり、人口構造の変化、人手不足や建設コストの上昇、エネルギー価格の変動など、企業を取り巻く環境はこれまで以上に不確実性を増し、私たちは今、社会・経済の大きな転換点に立っていると言えます。しかしながら、こうした変化は、私たちの事業のあり方を見つめ直し、新たな価値創造に挑戦する契機でもあります。社会の構造や人々の価値観が変わる中で、企業には、単に環境変化へ対応するだけでなく、グローバルな視座を持って変化の本質を捉え、社会にとって本当に必要とされる価値とは何かを問い直し、自ら変革を生み出していく姿勢が求められています。
三菱地所グループは、「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」を両輪で推進する経営を掲げています。この考え方は今後も揺らぐことはありません。私は常々、社会価値と株主価値は相反するものではないと考えています。社会にとって本質的な価値を生み出し続けることが、結果として企業の持続的な成長を支え、株主価値の向上につながるものと確信しています。
「長期経営計画2030」で私たちが目指すのは、単なる数値目標の達成だけではありません。まちづくりを通じて、社会課題の解決と事業成長を結び付け、次世代に誇れる価値を残していくことです。不確実性が高まる時代だからこそ、社会価値と株主価値の両輪をより力強く回し、当社ならではの価値創造を追求していきます。
私たちは、2024年度に公表した「長計経営計画2030 Review」において、サステナビリティ重要テーマとマテリアリティのアップデートを行い、「まち・サービス」「地球環境」「人の尊重」「価値の創造」を「三菱地所グループと社会の持続可能性 4つの重要テーマ」として定めました。これは、当社がサステナビリティを事業活動とは別の枠組みとして捉えるのではなく、事業、特にコアビジネスであるまちづくりそのものが、当社における社会価値創出のアクションであることを明確にするためのものでした。
2025年度は、この考え方を具体の経営計画へと落とし込むため、当社として初めてインパクトロジックモデルを策定し、サステナビリティと事業の相関の明確化を図りました。事業グループごとに、個々の事業活動がどのような社会課題の解決につながり、価値を生み出しているのかを棚卸した上で、その進捗を測る指標・KPIも設定しました。
このように社会価値向上戦略の深化を進め、当社が創出したい社会価値を事業ベースで言語化し、社会へのコミットメントの明確化を図ったことは意義深いものですが、戦略は策定して終わりではありません。年次計画への反映、KPIのモニタリングによる改善に加え、ステークホルダーとの対話を通じて戦略の更なる高度化を進め、事業の意思決定や投資判断、日々の業務に結び付けていきます。社員が自らの仕事と社会とのつながりを意識し、誇りを持って挑戦することが、当社の価値創造をさらに前へ進めていく力となり、社会課題を事業機会として捉える企業風土や、中長期目線の事業変革を生んでいくものと考えています。
2025年度、当社は気候変動対応において大きな節目を迎えました。温室効果ガス排出量削減の2030年目標を5年前倒しで達成したことに加えて、調達する電力を100%再生可能エネルギー由来とする目標も併せて達成することが出来ました。これは、当社が長年にわたり環境性能の高い建物開発にこだわり、管理運営を通じたエネルギー消費量削減などに積極的に取り組んできた成果であり、パートナー企業や社員をはじめとする多様なステークホルダーの皆様と共に積み重ねてきた努力の結果でもあります。
2020年に本目標を策定した当時は、達成難易度の高い設定だと考えていましたが、気候変動の深刻化の中で当社が果たすべき責任を考え、高い志を持って取り組み結実したこの成果を率直に嬉しく思います。
一方で、今回の達成はゴールではなく、当社が掲げる2050年ネットゼロ目標に向けては未だ道半ばです。これからは建物のライフサイクル全体を通じた排出量削減、サプライチェーン全体での脱炭素化など、より難度の高い気候変動対応に取り組みながらも、当社は引き続き都市のレジリエンス、エネルギーの安定供給、快適性やウェルビーイングといった、当社が担うべきまちの機能向上を実現しなければなりません。当社はこれからも次世代に向けた社会インフラ提供を通じ、脱炭素社会への移行を業界に先駆けて推進していきます。
持続可能な社会の実現に向けては、環境への取り組みと同時に、人権尊重や人的資本への取り組みも欠かせません。当社はこれまでも、人権デュー・デリジェンスや、建設会社・清掃会社で働く外国人労働者の方々を対象とした現地ヒアリングなどを重ねてきました。
人権やサプライチェーンに関する取り組みは、一社だけで完結するものではありません。取引先やパートナーの皆様と対話を重ね、共に学び、改善を積み重ねることが重要です。私たちの働きかけを通じて、取引先の意識や行動の変化を促し、持続可能なサプライチェーンの実現につながる好循環を生み出していきたいと考えています。
Diversity, Equity and Inclusionの推進もまた、企業の本質に関わる取り組みとして重視しています。多様な人材が力を発揮できる組織であることは、当社の価値創造に不可欠です。多様な価値観や経験を持つ人材が集まり、それぞれの力を発揮することで、意思決定の質は高まり、組織の柔軟性や変化への対応力も磨かれます。
ジェンダー平等や女性のエンパワーメントに関するKPIの一つである女性管理職比率については、誰もが働きやすい職場づくりのための風土醸成や、係長級の管理職候補を含む女性の採用強化を続けてきた中で、着実に向上してきています。
「人を想い、人に寄り添い、人が力を発揮できる環境をつくること」、それは、当社がまちづくりを通じて社会に価値を提供し続けるための基盤です。人に選ばれる企業であり続けることが、結果として、社会から選ばれるまちづくりにもつながると考えています。
当社が掲げる「Be the Ecosystem Engineers」は、多様な人々、企業、自治体、地域社会をつなぎ、共創を通じて新たな価値を生み出す場と仕組みをつくることです。私たちは、丸の内をはじめとするまちづくりで培ってきた知見と、国内外の事業で得たネットワークを活かしながら、社会課題の解決と新たな価値創造を両立するプロジェクトに挑戦していきます。事業環境が厳しさを増す中にあっても、当社にはまだ多くの可能性があり、リノベーションやコンバージョン、ノンアセット、フィービジネス、デジタル領域など、成長に向けた選択肢は広がっています。私は社会課題を、新たな価値創造の入口であると信じています。私たちは、これまで蓄積してきた人財、ノウハウ、ブランドを活かしながら、当社ならではのまちづくりのモデルを磨き続けていきます。
私は、どれだけテクノロジーが進化しても、人は人と出会い、学び、働き、暮らしていく存在であり続けると考えています。人と人がつながることの価値は、決して変わりません。私たちがつくるまちは、その営みを支える社会基盤です。住む場所、働く場所、学ぶ場所、憩う場所、その一つひとつが、人々の暮らしを支え、社会の未来を形づくっていきます。だからこそ、私たちが常に問い続けなければならないのは、「次の世代に何を残せるか」です。社会価値向上戦略も、脱炭素への挑戦も、人権尊重も、すべては次世代により良い社会を引き継ぐための取り組みにほかなりません。
私たちは、人を想い、まちを想い、未来を想う力を磨きながらチャレンジを続け、社会価値と株主価値の両輪による経営をさらに深化させていきます。三菱地所グループの基本使命が謳う、「まちづくりを通じた真に価値ある社会の実現」に向け、私たちはこれからも次世代に誇れるまちづくりの歩みを進めていきます。